攻城団ブログ

お城や戦国時代に関するいろんな話題をお届けしていきます!

【江戸時代のお家騒動】お下の乱 強大化した重臣と藩主の意地が軍事衝突

こちらもご覧ください!(広告掲載のご案内

【時期】1640年(寛永17年)
【舞台】人吉藩
【藩主】相良長毎、相良頼寛
【主要人物】相良清兵衛(犬童頼兄)、相良半兵衛

相良清兵衛の孫が主家の娘を娶ったことで暴走

戦国時代以前からの血筋を誇る名門大名は、そのほとんどが戦国時代終盤から江戸時代初頭にかけて姿を消し、あるいは代々の領地から切り離された。
それでも薩摩の島津氏をはじめわずかながら本来の土地を維持できた大名も存在する。関ヶ原の合戦で徳川方に味方した肥後の戦国大名・相良長毎(さがら・ながつね)はその幸運なひとりである。

彼を支え続けた家臣に大童頼兄(いんどう・よりもり)という人物がいた。
彼はその功績を認められ、藩主と同じ「相良」姓を名乗ることを許され、また関ヶ原の後には清兵衛と名乗っていたため、一般に「相良清兵衛」とも呼ばれる。お下の乱が別名「相良清兵衛事件」とも称されるのはこのためだ。

清兵衛は主君への奉公をなにより大事にしてきたというが、いつの頃からかその権力をはしいままに行使し、専横をするようになっていった。
1606年(慶長11年)に清兵衛の父が死去して彼を止める人間がいなくなったこと、そして1628年(寛永5年)に清兵衛の孫が長毎の娘を姿り、主家と親戚関係が結ばれたことで、清兵衛の力がいよいよ強まり、また歯止めが利かなくなっていったということもあるようだ。

このような清兵衛の専横を長毎は良く思っていなかったらしい。1636年(寛永13年)に亡くなる間際、「清兵衛を幕府に訴えよ」と遺言を残しているほどだ。一方の清兵衛はこの年に隠居を決めて新たに屋敷を建てている。

「お下屋敷」で藩正規軍と軍事衝突! 100人以上が死亡する惨事に

長毎の死によって藩主の座は長男の頼寛へと受け継がれた。
この頼寛が父の遺言に従う形で1640年(寛永17年)、清兵衛を幕府に訴えたのである。その内容は以下のとおり。

・検地の際に尺を短くすることによって石高を小さく見積もり、差分を自分の懐に収めた。
・隠居する場所に裕福な町人をおいて、城下町のようなものを形成している。
・藩の財政をすっかり押さえ、さらに自ら私腹を肥やし、1万~2万石もの収入を得ている(人吉藩の石高は2万2100石余であり、これがどれほど莫大なものかわかる)。

これに加え、「清兵衛の権力はあまりにも強すぎて自分ではどうにもできない、処分しようとすれば仕返しを受ける」とまで書いている。長毎が遺言を残した背景にもこのような認識があったものと見え、清兵衛の力の強さがうかがえるとともに、近代的な大名というよりは昔ながらの「国人たちのリーダー」的存在でしかなかった相良家の支配力の弱さ、基盤の不安定さも読み取れるのだ。

結果、幕府老中に呼び出された清兵衛が老体に鞭打って江戸へ向かっている間に、人吉藩で事件が起きた。
この時、清兵衛の屋敷の留守を任されていたのは養子の半兵衛という男だ。かつて彼の母は清兵衛と密通しており、清兵衛は夫を亡きものにし、半兵衛を養子にしたといういきさつがある。半兵衛は養父の専横に加担し、優雅な生活を送っていたという。

清兵衛が人吉藩を離れたのと同時期に、江戸の藩邸からふたりの使者が送られてきた。彼らに与えられた使命は「清兵衛が江戸へ向かうのを拒否した場合、連れて行くこと」であったが、実際にはそのような事態が起きず、彼らは入れ違いになって人吉藩に到着した。
ところが、半兵衛は彼らが江戸での清兵衛の様子を知っていると勘違いして尋問してしまう。誤ってそのうちのひとりを殺してしまったというから、拷間に近いものであったと考えられる。

これがきっかけとなって半兵衛や一族郎党は「お下屋敷」と呼ばれていた清兵衛の屋敷に立てこもり、藩との衝突事件を起こす。
いくら藩内でも有力な一族とはいえ、正面から戦っては勝ち目はない。戦いは藩側の優位となり、観念した半兵衛は屋敷に火を放ち、一族郎党121人が亡くなる惨事となってしまった。

さて、国元で自分の養子が立てこもりをしているなどとはつゆ知らず、清兵衛は江戸での判決を待っていた。
このような事件が起きたこともあり本来であれば死罪を免れないが、高齢であることとこれまでの藩への貢献が考慮され、清兵衛は弘前藩主お預かりとなる。

その後、清兵衛は文芸などの趣味を楽しみつつ15年を弘前で過ごし、88歳で亡くなった。しかしその後も人吉藩における「藩主権力の弱体」と「家臣たちによる権力抗争」という構造は変わらず、たびたび騒動は起き続ける。
そしてついに混乱状態のままで幕末へと突入することになるのだった。

フィードバックのお願い

攻城団のご利用ありがとうございます。不具合報告だけでなく、サイトへのご意見や記事のご感想など、いつでも何度でもお寄せください。 フィードバック

読者投稿欄

いまお時間ありますか? ぜひお題に答えてください! 読者投稿欄に投稿する