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【歴代征夷大将軍総覧】大伴弟麻呂――名門出身の「最初の将軍」 731年(722年とも)~809年

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最初の将軍は誰か

しばしば誤解されるのだが、最近の通説では「坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)は初代征夷大将軍ではない」ということになっている。
「誰を最初とするか」は少々ならず難しい問題だが、少なくとも田村麻呂は明らかに違う、と言っていいだろう。征東使(せいとうし)が征夷使(せいいし)に正式に改名された後、最初に征夷大将軍となったのは、彼、大伴弟麻呂(おおとものおとまろ)だからだ。

弟麻呂が征夷大将軍に任命され、その証として「節刀(せっとう)」を与えられたのは先述したように794年(延暦13年)のことである。
この節刀というのは、本来天皇だけが有する軍隊を指揮する権限を一時的に将軍に代行させる際、その象徴として授けるものである。これは百済から伝来した「破敵(はてき)」という霊剣で、神々や太陽、月、北斗七星などが刻まれた刀であったと伝わっている。

国家の使者が現代も「使節」と呼ばれるが、その「節」は節刀の「節」と同じで、意味はそのものずばり「しるし」である。しるしを与えられ、国家における重要な権限を持たされたしるしなのである。
ちなみに、中国では旗(旌節)が「節」だったのに対し、日本では刀が「節」になった。価値観の違いを感じられるようで、なかなか面白い。

桓武天皇の決意――10万の征夷軍

弟麻呂が征夷大将軍に任命される前に、朝廷の東北支配にかかわる大きな事件が起きている。朝廷の軍勢が蝦夷に大敗北を喫したのである。
この時期、豊かな平原である胆沢の地(現在の岩手県水沢市付近)に拠る形で有力な蝦夷の部族が存在していた。時の桓武天皇は征東大将軍・紀古佐美(きのこさみ)の率いる大軍を送り込んでこれを討伐しようとしたのだが、指揮官たちが失策を重ね、また蝦夷の長であるアテルイの仕掛けた巧妙な罠にも苦戦して、紀古佐美らの軍勢は散々に打ち破られてしまったのだ(ただし、蝦夷側の被害も大きく、単純に当時の指揮官たちの失敗とだけするのは不公平だという見方もあるのだが)。

この敗北を受け、桓武天皇は新たな蝦夷征伐の軍勢を送る準備を始めた。征東使が征夷使に改名されたのもその過程のことであるが、なぜわざわざ改名しなければならなかったか、については諸説あってはっきりしない。
ただ漫然と「東の敵を討つ」のではなく「蝦夷打倒のための軍勢である」とはっきりさせるためだとも、蝦夷への逆襲を期する決意の表れだとも、以前から続いていた蝦夷征伐の事業を、同時期に進行していた平安京への遷都と併せて「桓武天皇の事業である」とはっきりさせたかったのだ、ともいう。

そして、この兵数10万という新たな蝦夷征伐の軍勢の総大将として選ばれたのが弟麻呂だったわけだが、この時すでに弟麻呂は60歳を超える高齢である。しかも、これ以前に「征東大使」に任命された経験はあったものの実戦経験はなかったのではないかと見られており、どうも実戦の指揮官としての任命ではなかったようだ。
そもそも、節刀を与えられる大将軍(持節征東大将軍、持節征夷大将軍などと呼ばれる)というのは戦場の後方から戦況を見守ればよく、実際に兵を率いて戦うのはその下についた将軍たちの役目だった。特に、この時は後の征夷大将軍である坂上田村麻呂が東北方面での経験がないにもかかわらず副使として抜櫂されており、実質的な指揮官として大いに活躍した、と伝えられている。

弟麻呂自身は1年後に中央へ戻って節刀を返却、征夷大将軍としての任を解かれた。
この時の功績によってある程度は出世したものの、自身の後を継ぐ形で引き続き蝦夷討伐で活躍する田村麻呂のような巨大な名声や栄達を得ることはなかった。

名門・大伴氏の血を引く

それでは、なぜ(名目上の存在だったとしても)最初の征夷大将軍として弟麻呂が選ばれたのだろう。これは、彼が軍事の名門・大伴氏の出身だったから、という説を採るのが妥当ではないだろうか。
大伴氏の血筋は神話の時代にさかのぼり、「天皇の祖である瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が地上に降臨する際、先導の役目を担った天忍日命(あめのおしひのみこと)の子孫」だと伝わる。

古代の大和朝廷においては物部氏と並んで軍事をつかさどる大権力者であり続け、新興の蘇我氏が躍進を遂げた時期には一時影を潜めたものの、蘇我氏が没落すると再び頭角を現した。藤原氏の出現によって最終的には衰退の一途をたどることになるのだが、それでも弟麻呂のころにはまだまだ軍事貴族として有力かつ高名な存在であった。
このような大伴氏の先祖代々積み重ねた功績に敬意を表する形で、桓武天皇は「最初の征夷大将軍」として弟麻呂を選んだのだろう。

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