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【歴代征夷大将軍総覧】鎌倉幕府3代・源実朝――歌に打ち込み、異国を夢見た将軍 1192年~1219年

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三代目が和歌に熱中したそのわけは

実朝は初代将軍・源頼朝の次男であり、二代将軍・頼家の弟に当たる。幼名は千幡。病で危篤状態になった兄・頼家に代わって将軍となった。源氏の家督を継承するとともに征夷大将軍となったのは、彼が最初である。
この実朝は、政治にはまったく熱心でなく、ひたすら京風の文化――特に和歌に執心した人として知られている。

歌人として名高い藤原定家に師事し、自らも歌集『金槐和歌集(きんかいわかしゅう)』を残したし、『小倉百人一首』にも彼の歌「世の中は常にもがもな渚漕ぐ海人の小舟の綱手かなしも」が収録されているほどだ。
彼の歌道趣味は趣味の領域にとどまらず、政治の場での判断まで、歌を優先させたという。しくじって勘気に触れた御家人が歌によって罪を許された、あるいは謀反の罪に問われたものの歌のおかげで許された、といった話がいくつか伝わっている。『吾妻鏡』にも「武士の本分は武芸ではなく歌になってしまった」といった意味の嘆きが記されていたほどで、一種の「和歌オタク」といってもいいだろう。
これほどまでに実朝が和歌に熱中したのは、彼が実権のない「傀儡将軍」だったから、とされている。

幕政は母・北条政子の実家である北条氏に握られ、後にこの一族が代々継承する執権職こそが実質的な幕府の中枢になっていた。
それどころか、将軍就任の翌年には祖父にあたる北条時政が実朝を廃して新たな将軍を就任させようとする動きまであった。この陰謀自体は時政の子・義時と政子によって制止され、時政は隠居に追い込まれたものの、実朝の力のなさ、立場の危うさがよくわかる事件といえよう。

幕府内部の争いはこの後も続き、1213年(建保元年)には侍所別当、つまり幕府の軍事機構の長である和田義盛と北条氏の対立が表面化し、鎌倉を巻き込む和田合戦と呼ばれる争いの末、義盛が敗れて死んだ。北条氏の勢力拡大は着実に進んでいた、と考えていいだろう。
ただ、近年の研究では、必ずしも実朝は和歌だけに熱中したのではなく、行政機構である政所の整備を推し進めるなど、政治にもかかわっていたのではないか、と考えられるようになっている。実際、「政治に介入してきた僧侶を一喝する一方で、後に自らその僧侶をねぎらって角が立たないように配慮した」とか、「頼朝時代のことをきちんと勉強していた」などのエピソードも残っている。

それでも、宋(中国)に渡ろうと船を造らせたが、これがうまく海に浮かばなくて失敗した――などという有名なエピソードに見られるように、どうにも「武士らしくない」人物であったことは間違いない。
政治にどれだけ熱心になろうと北条氏の影響力からは逃れられない、そんな無常観が彼の目を歌や異国に向けさせた、という側面は間違いなくあったのだろう。

死の陰に見え隠れする、幕朝関係

そんな実朝が死んだのは、まだ27歳のときのことだ。
彼には子ができなかったが、兄・頼家の忘れ形見である公暁(くぎょう、こうきょう)を猶子としていた(後継者としては後鳥羽上皇の皇子・頼仁親王が予定されていた)。ところが、この公暁は「父が死んだのは実朝のせいだ」と思い込んでおり、鶴岡八幡宮にいた実朝を襲撃、暗殺してしまった、というのだ。

実はこの事件の背景には、当時の幕府と朝廷の確執があったのでは、という見方がある。
長じた実朝はもともと京風文化を好んでいたせいもあってか、朝廷に、そして後鳥羽上皇に深く傾倒していたとされる。上皇側もこれに応えるように、実朝を最終的に右大臣にまで引き上げた。これは先例を考えると異様な官位昇進であった。

後鳥羽上皇は何とかして武家政権から朝廷へ実権を取り戻そうと考えていたふしがあり、そのために実朝を取り込み、鎌倉幕府を骨抜きにしようとしていたのでは――というのは、非常に筋の通る説といえよう。
とすれば、鎌倉幕府側の誰かが実朝の存在を危険視し、これを排除することで朝廷の影響力を排除しようとしても、まったくおかしなことではない。そうでなくても、京風文化を好み、「武士らしくない」実朝を苦々しく思うものは少なくなかった。せっかくの武家政権を守るために少々強硬な手に出るものがいるのも、自然な話だ。

――無論仮説の域は出ないし、誰が黒幕かもわからないのだが。ともあれ、実朝の死によって事態は大きく動くことになる。朝廷と幕府の関係が悪化し、直接対決が始まるのだ。

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