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【歴代征夷大将軍総覧】後醍醐天皇の皇子たち――建武の新政・南北朝時代の将軍

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領地問題でつまずく

鎌倉時代末期、北条得宗家を頂点とする幕府の政治は限界を迎えつつあった。困窮を極める生活と、長く続いた執権独裁に対する御家人たちの不満。近年になって勃興した悪党たちの活力。
後醍醐天皇はこのふたつのエネルギーを活用することによって、約150年続いた鎌倉幕府を打倒することに成功した。彼の新政権においても征夷大将軍は存在し、武家の長として活動している。

幕府を倒した天皇は、早速新たな政治を開始した。「建武の新政」あるいは「建武の中興」と呼ばれるものがそれだ。
この新しい政権は天皇を絶対者として置き、その権限を強化した――これが大きな問題を引き起こし、新政の失敗につながった。
天皇は「土地の所有権は綸旨(天皇の指令書)のみを根拠とする」としたのである。これを受けて人々は一斉に京、天皇の下に殺到した。なんとしても、自分の土地の権利を保障してもらわなければいけないからだ。戦乱によって土地の所有権が混乱したばかりだったし、これを機に自らの領地を拡大しようと企むものもいた。偽綸旨もずいぶん横行したという。

現代風にいえば、銀行に預けているお金が一旦凍結されてしまって、総理大臣直筆の書類がないと引き出せなくなってしまったようなもの、といえば極端だがわかりやすいだろうか。日本中の人々が東京に殺到し、首都機能が麻痺するのは請け合いである。
天皇自身は優れた為政者として自らの政治力・判断力に自信があったのかもしれないが、これだけ混乱すれば処理に限界もくるというもの。
混乱を収拾するために土地問題についてはたびたび法令が更新されて先の宣言は撤回されたが、むしろそのことは新政権の行き当たりばったり具合を暴露して、人々の信頼を失っていく契機にさえなった。

寄せ集め集団の挫折

また、そもそも天皇を擁して幕府を倒した人々が「反北条」以外には共通項の少ない寄せ集めに過ぎなかった、というのも大きな問題だった。
公家と武士、悪党と名門御家人――彼らの新政府に対するヴィジョンが合致するはずもない。旧政権を打倒した革命軍が、やがて「どんな政府を作るか」で決裂し、新たな内乱に突入するのは古今東西いくらでも例のあることであり、建武の新政もその例に漏れなかった、ということに過ぎない。

かくして、鎌倉幕府の滅亡からわずか3年で建武の新政は崩壊する。
足利尊氏が鎌倉に入って反旗を翻し、やがて京を奪回して持明院統の光明天皇を擁立し、室町幕府を成立させる。こうして、持明院統の天皇を担ぐ北朝と、大覚寺統の天皇を担ぐ南朝という、ふたりの天皇、ふたつの朝廷が日本を二分して争う南北朝時代が到来することになる。

この争いは足利氏内部の不和などもあって長く続いたが、室町幕府の三代将軍・足利義満のころになると情勢はすっかり北朝有利に傾いていた。
結果、1392年(明徳3年)南朝の後亀山天皇(後醍醐の孫)が北朝の後小松天皇に譲位するという体裁を整えて、ふたりの天皇が並び立つ時代は終わりを告げたのである。

建武の新政は「公家幕府」?

さて、天皇親政によって新たな政治を行おうとした建武の新政およびその後継である南朝だが、その実態は「公家幕府」ともいうべきものだった、という指摘がある。
実際、建武の新政における組織機構のうち、武士の統制をする武者所は鎌倉幕府の侍所、所領争いの裁判を行う雑訴決断所は幕府の引付衆とほぼ同種の存在であった。そして何ようも、建武の新政と南朝には征夷大将軍がいたのである。もちろん、これは古代の「臨時に設置され、東方の敵を討つ」存在ではなく、中世の「武士たちのリーダー」としての征夷大将軍だ。

一般に、建武の新政における征夷大将軍は、後醍醐天皇の本来の意思ではなく、護良親王が強引に認めさせたもの、という理解がされているようだ。
しかし、建武の新政が必ずしも幕府の手法を全否定するものではないこと、またそもそも武士たちの力が弱まったわけではなく、彼らを無視して新たな政府を運営することはできないことを考えると、「後醍醐天皇はもともと幕府を自らの政治に取り込むつもりで、そのために最初から征夷大将軍を設置するつもりだった」という説を採るほうが妥当であるように思われる。「建武」という、天皇がわざわざ選んだ元号が「武において建つ」ものだったことも、武を自らの政権に取り込もうとする意思を感じさせる。
事実、護良親王が失脚した後も、成良親王と宗良親王が征夷大将軍の座を継いでいる。これはただの飾りではなく、「公家幕府」の証明であるように思われる。

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