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【殿様の左遷栄転物語】駿河大納言の悲劇に巻き込まれた付家老たち

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付家老に負わされた重大な責任

当然、きちんと主君をコントロールすることができなければ、付家老自身も大きな責めを受けることになる。
顕著なのが2代将軍・徳川秀忠の子で3代将軍・徳川家光の弟にあたる徳川忠長(通称・駿河大納言)にまつわるケースである。この忠長は幼い頃より利発で秀忠に寵愛され、一時は兄・家光に代わって将軍職を継ぐのでは、と見られていた時期もあったとされるほどだ。

実際には家光が跡を継いだのだが、その背景には長子相続を貫きたい家康の介入があったとされる。
本連載第2章で紹介したように、本来継承する予定でなかった人物が(事情があったとしても)家督を継ぐと後世に禍根を残しかねない。太平の時代にあっては当然の判断であったといえよう。

それでも、秀忠としては忠長に期待するところが大だったのだろうか。成長した彼を頼宣に代えて駿府にいれ、御三家の祖のうちもっとも年少の頼房よりも上の格に位置づけようとしていたフシまであった(1626年〈寛永3年〉の段階で尾張の義直は61万9500石、紀伊の頼宣は55万5千石、そして駿府の忠長は55万石だったのに対し、水戸の頼房は28万石に過ぎない)、とされている。

当然、家康が義直・頼宣・頼房の3人に信頼できる家臣団をつけたように、秀忠も忠長のもとに入材を集めた。
その中でも古くから秀忠に仕えていた朝倉宣正(2万6千石)と、関ヶ原の戦いにおいて伏見城で囮の役を務めて討ち死にしたことで知られる鳥居元忠の子・成次(3万5千石)のふたりは所領の面でも職務の面でも群を抜いている。このふたりは、先述した御三家付きの五人の家老と同格の存在であった、と考えていいだろう。

残念なことに、彼らが仕えた忠長は問題の多い人物だった。
大井川に橋を架けたり、寺社の土地を駿府の町の外へ移したりといったかたちで領国経営に熱心であった一方で、家臣の子やそばに仕えていた者たちを殺害してしまったのに、その翌日には自分が殺した彼らをまるで生きているかのように呼んでみせるなど、狂気じみた行動が増えていったという。
『徳川実紀』が「身のふるまひ凶暴」「そのさま全く狂気に類せり」としているくらいだから、相当だったのだろう。

そこで秀忠は彼を甲斐に幽閉して罰を与えるとともに更生を目指し、また忠長も幕府重鎮を通して繰り返し自らの赦免を願い出ている。
だが、その秀忠が死んでしまうと、もはや彼を守れる者はいなかった。家光は3代将軍に就任して1年しないうちに忠長を新たな幽閉場所に移し、そのまま改易してしまった。のちに彼は親藩大名としては唯一、自殺に追い込まれてしまうことになる。

朝倉・鳥居両家への重い処罰

この一連の出来事において強く責められることとなったのが、付家老である朝倉・鳥居の両名であった。
秀忠は忠長を幽閉した際、朝倉宣正を「汝を忠長の後見として数年保傅の職に置事かゝる行跡を諫めんためなり 然るに忠長が頃日の挙動 頗る人倫にそむく みな汝が罪なり」(『徳川実紀』)と強く叱責しているし、忠長の切腹後には安藤直次が同じく宣正に対して「其許は君の御愛子を補佐して其愛子をして不測の罪に陥らせ玉ふ 是何の面目ありて人に交じり申しへくや」(『霍の毛衣』)と、やはり付家老の責任を果たさなかったことを責めている。

処罰も当然のように厳しかった。宣正はついに罪を許されることなく死に、鳥居成次の子で忠長幽閉中に江戸における職務を代行していた忠房は罪こそ許されたものの、俸禄を与えられることなく死んだ。他の家老クラスの家臣たちがそれぞれ罪を許されて大名に復帰したり、子孫がどこかの藩に仕えたりしていることを考えると、これは破格に厳しい処置といえる。

とはいえ実際のところ、忠長の改易と死に対して、彼らにどこまでの責任があったか、どれだけのことができたかはあやしいものだ。
表向きの改易理由は忠長の狂気であったかもしれない。だが、家光がこれほどまでに急いだのは、幼少期からのライバルであり、一度は自分の地位を奪いかねなかった弟・忠長を一刻も早く始末したかったからではないか。そもそも、忠長の狂気自体が、「父・秀忠がいなくなれば、兄は自分を排除するのではないか」という恐怖に立脚していたのではないか。後世から見た結果論ではあるが、忠長の運命はもうこの時点ですでに「詰んで」いるようにさえ見える。

このような状況の中で、それでも主君を諫め、幕府との間を調整し、何事も起きないように運ばなければいけない、それができなければ改易だ――と組織全体のトップ(秀忠)だけでなく同僚(直次)までが責めたというのだから、まさに「すまじきものは宮仕えなりけり」という感じである。まったくもって朝倉・鳥居の両家には同情するしかない。

 

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