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【10大戦国大名の実力】武田家⑤――武田家滅亡

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勝頼は無能だったか?

前回まで紹介した通りの事情から、後世の勝頼への評価は手厳しい。
たとえば信玄神格化のバイブルとも言える軍学書『甲陽軍鑑(こうようぐんかん)』などは「信玄以来の重臣たちの言葉に耳を貸さず、信濃出身者や文官たちで側近を固めて実権を独占した」として激しく非難している。そこまで否定的な視点に立たなくても、織田・徳川に敗北し、武田家を滅亡させてしまったことが、彼に対する点を辛くさせてしまっている。

一方で、勝頼を弁護する声もある。まず、彼には名家を率いるだけの強力な正統性が欠けていた、という見方がある。
それによると、信玄は勝頼ではなくその子の信勝を後継者として指名し、勝頼はあくまでその後見人に過ぎなかったという。『甲陽軍鑑』にも、勝頼は「陣代」という当主代行の地位だったにすぎず、正式な当主は信勝だった、と書かれている。

彼は武田家当主でありながら、強力なリーダーシップをもつには至らなかった。母が信濃の諏訪氏の出身であり、自身も諏訪氏を継いでいたことから、甲斐の武士たちは彼を「自分たちのリーダー」としては見なかったのである。
これはたとえるなら「長男が親と喧嘩して勘当されたから次男が名門企業を継いだものの、グループ企業の社長や本社幹部たちが事あるごとに反発する」という状況だ。これではどれだけ優秀な人物であったとしても、うまくかじ取りができるはずはない。おまけに「先代社長に潰されかけた新興のライバル企業が、ここぞとばかりに目の敵にしてくる」のだからなおさらだ。

だからこそ勝頼は側近を強化し、また信長などが行ったように、自身の権力を強化する独裁的な体制を構築しようと試みた。これが家臣たちの反発につながったわけだが、時が許せば勝頼は「新時代の武田家」の構築に成功したかもしれない。
だが、時代は彼にその時間を与えなかった。一気に勢力を拡大する織田信長によって戦国時代は終わりを迎えようとしており、武田家もその波に飲まれて消えていったのだ。

その後の武田家

その後の話も少しだけしよう。
徳川家康はかつて信玄に敗れたことがあったが、それゆえにか彼のことを深く尊敬したという。そのため、武田家の崩壊後はその旧臣を多数吸収し、軍事制度も武田風に改めた。五男の信吉(のぶよし)に武田家を継がせて復興させようとさえしたが、この子は若くして病死してしまっている。

このような経緯により、武田家は滅亡したと考えるのが一般的だ。しかし、実はその後もいくつかの血筋が存続している。
信玄の次男・海野信親(のぶちか。龍芳(りゅうほう))は半俗半僧の修行者だったが、彼の曾孫にあたる信興という人物が江戸幕府の高家(儀式・典礼を行う役職)となり、現在に至るまで武田家嫡流としてその血が伝わっているのだという。
一方、末子・信清(のぶきよ)は上杉景勝の家臣となり、米沢武田家として残った。こうした武田家存続の背景にも、もしかしたら家康以来の思いがあったのかもしれない。

こうした家康の信玄尊敬の念が受け継がれたか、江戸時代になると「甲州流軍学」、すなわち信玄の戦術戦略がブームを巻き起こした。その火付け役となったのが、先述した『甲陽軍鑑』である。
信玄の重臣であった高坂昌信が書いたという体裁をとってはいるが、実際には小幡景憲(おばた かげのり)という人物によるものと考えられている。この書物には信玄の活躍やその軍法などが(少々荒唐無稽なものも含めて)豊富に収録されており、武士の在り方を示すものとして広く読まれた。

名門ゆえに……

信玄の時代、一門衆や家臣団といった名門ならではの大きな力をもつ優れた武将たちが彼を支えて強力な武田軍団を構成した。如何に信玄が名将であっても、彼らなくして数々の勝利はありえなかったろう。
しかし彼らは元々それぞれ独自の勢力をもつ武家である。信玄の時代には勢力が拡大していったのでうま味も大きかったし、「名家」の正統性も有効だったので、主君に従った。

そして、その子の勝頼の代にはそうではなかった。だからこそ勝頼に反発し、また彼を見切って次々と離れていった。その様子はすでに見てきたとおりである。
このように武田家は名門の長所ゆえに隆盛し、名門の弱点ゆえに没落した。それは変化の時代である戦国時代において、ある意味で当然のことだった。

イノベーションを起こせない組織は動乱期に適応できない。これは現代でも変わらない。
たとえば、ユーザーが選ぶ商品は「創業ウン十年」を売りにしているだけの企業のものではなく、安くて質が良い製品を提供していたり、時代に合わせた宣伝・販売を行えたりする企業のものであろう。
「名門」「名門」と叫ぶだけでは何の意味もない――平成不況という時代を生きる私たちにとって馴染みのこの論理が、戦国時代にもあてはまるのだ。

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