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【10大戦国大名の実力】最後に――「家を守る」ために

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本連載の最後を飾るのにふさわしいエピソードをひとつ紹介します。
伊達家が仙台藩・宇和島藩の藩主として江戸時代を通じて存続していったことはすでに紹介したとおりです。しかし、本家である仙台藩を継いだのは次男の忠宗で、長男の秀宗は別家の宇和島藩を継ぐことになりました。
秀宗は庶子なのでそこまでおかしいことでもないのですが、実は「これが原因だったのでは?」と思える要素があります。それは、秀宗が豊臣秀吉の「秀」の字を賜り、また「豊臣」姓も授かるなど、豊臣家と深い関係をもつ人物だった、ということです。

じつは同じような話が他にもあります。
佐賀藩の鍋島勝茂(なべしま かつしげ)には、もともと元茂(もとしげ)という長男がいました。ところが、勝茂が徳川家康の養女を継室に迎えたことで元茂は廃嫡されてしまい、その継室との間に生まれた四男の忠直(ただなお)が二代藩主の地位を約束されました。
忠直は若くして病死してしまったが、結局その子の光茂が勝茂の跡を継ぐことになります。

もっと複雑なのは池田家のケースです。
信長の乳兄弟として彼を支えた恒興、その子で豊臣政権で活躍したものの関ヶ原の戦いでは家康についた輝政の後、家督を継いだのは長男の利隆(としたか)でした。普通ならこれだけなのですが、なぜか弟の忠継(ただつぐ)が岡山藩に入り、彼が若くして死ぬと同母弟の忠雄(ただかつ)が跡を継ぎました。
その後、当主の急死で後継者が幼かったことから利隆の家系と忠雄の家系はそれぞれ国替えされ、前者が岡山藩、後者が鳥取藩を代々継承することになりました。どうしてこんな複雑なことになったかといえば、忠継・忠雄兄弟の母親・督姫(利隆は別)に理由があります。彼女は家康の次女で、北条氏直の未亡人にあたる女性なのです。

つまりどういうことかといえば、伊達家が次男に家督を継がせたのも、鍋島家が長男を廃嫡したのも、すべては「時の権力者の不興を買わないように、厚遇を受けられるように」という目的の下の行動だったのでは、という推測が成り立つのです。
徳川家が「秀吉にかわいがられた男」を警戒するのは当然ですし、「家康の養女の子」に敬意を払うのも当然のことです。それが杞憂ではなく事実だとわかるのが、池田家のケース。外様大名である池田家は督姫の血(つまり家康の血)を継いだことで厚遇され、領地は姫路という交通の要所でこそなくなったものの、二系統が大藩として残りました。

「家」を残すことは戦国大名という組織にとって最大の目的でした。
そのために時の権力者との距離を測るのは絶対に必要だったのです。政権が豊臣家から徳川家に移り変わり、多数の大名が取り潰された江戸初期、戦国大名が必死に生き残りを図ったことがここからわかりました。

――と、このような戦国大名の生き残り術を満載した本連載制作のためには改めて色々な史料をあたり、戦国武将たちの業績と生き様を調べる必要がありました。
そのなかでしみじみと再確認したのは、「人間のやることと組織の抱える問題は、過去も現在もまったく変わらない」ということです。

それからもうひとつ、「中央と地方の差」というものも強く感じました。
本コラムで紹介した10家のうち9家は何らかの形で「地方であるがゆえに」力を蓄えることができたのですが、結局「地方であるがゆえに」イノベーションで中央の勢力に遅れをとり、天下を取ることができませんでした。

天下をほぼ制すことができた織田家は、東海地方から勢力を伸ばしたわけですが、尾張は津島・熱田といった商業都市をもち、近畿ともほどよく近い絶妙の位置にありました。
そのうえ、周辺の強力な大名はそれぞれ牽制しあい、尾張を狙っていた今川家は桶狭間の戦いで打倒することができた――なるほど織田家が伸びるわけであり、その他の大名たちが天下に届かなかったわけでず。このような「地方の悲劇」「立ち位置がもたらす幸運」もまた、現代でもよく見られる光景でしょう。

なるほど『織田信長に学ぶ○○』とか『孫子の兵法でひも解く××』といったビジネス書の類が何冊も刊行され、私にもこうした本を書くチャンスが回ってくるわけだ、とひとりで納得してしまったものです。
しかも、戦国という時代は私たちの生きる現代と似通った部分がかなり多くあります。吹き荒れる社会不安、急速に変わる情勢、次々と現れる新しい方法論、そして中央と地方の格差。そうした事情のなかで、戦国の「家」という組織がたどった成功と失敗の経緯を知ることは、現代のビジネスマンたちにとって絶対に有用なはず――企画当初の思惑が見事にはまってくれました。

読者のみなさんが激動の時代をいかに生きるか、のヒントを得ることができたならば、これ以上の幸福はありません。 

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