面白いところでは、「農民の城」というものもある。
あなたは「農民たちも城を持っていた」と聞いたら、驚くだろうか? 戦国時代の農民たちは、ただただ戦乱に翻弄されるだけの存在だと思っていないだろうか? これは実のところ、かなりの部分で間違いであるらしい。
確かに、繰り返される合戦は彼らの生活を脅かした。兵士たちはほとんど人の姿をしたイナゴのようなもので、村が戦場になれば徹底的な略奪が行われた。家財や牛馬といった財産が奪われ尽くされたのはもちろん、人間――特に女や子供が連れ去られ、奴隷として売られていったのだ、とされる。
しかも、このような略奪を倫理的に非難するような考えは戦国時代にはなかったらしい。むしろ大名たちは兵を動員するにあたって報酬を払わない代わりに略奪を認めていたフシがあり、それどころか彼らの捕まえてきた人々を自ら取り仕切った奴隷市で売買させていたほどであったという。
こうなっては農民たちも自らの身を自らで守るしかない。そのため、彼らは戦いが近づけば領主の城に逃げ込んだというが、それとは別に「農民たちも城を持っていたのではないか?」という見方を『戦国の村を行く』(朝日新聞社)で提唱したのが藤木久志氏である。
藤木氏は敵に襲われた村の人々がすばやく山に籠もったことに注目し、「村の城」の存在を提唱した。この考え方は、城をただ権力の象徴と見る従来の価値観を転換させるものであり、非常に重要なポイントだろう。