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【戦国軍師入門】石垣原の戦い――黒田官兵衛、最後の賭け

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榎本秋の戦国軍師入門

関ヶ原では天下分け目の決戦が行われたが、実はこの戦いに呼応する形で全国的に戦いが巻き起こっていた。これらを総称して関ヶ原の役、などと呼んだりもする。

中でも九州で行われた戦いは、ひとりの天才軍師がその野望のために立ち上がって見事な活躍を見せた、という点で特筆すべきものだ。その軍師の名は黒田官兵衛。
彼は秀吉の天下取りに大いに貢献した。しかし、戦乱が終わるとその参謀としての立ち位置を石田三成に取って代わられるようになり、またその鋭い知略を秀吉に警戒されるようにもなっていた。
そこで彼は領国の豊前(現在の福岡県東部及び大分県北部)の中津に隠居したのだが、その一方で常に天下の情勢をうかがっていた。

1600年(慶長5年)、石田三成の挙兵と徳川家康の動向を聞いた官兵衛(当時は既に出家して如水と呼ばれていた)は今こそまさに最後の賭けに出る時、と行動を起こす。
この時彼は東軍として挙兵したのだが、実は心中では九州を占領したのちに中央に攻め上がり、一気に天下を奪い取るつもりだったのだ。官兵衛は決戦には1カ月はかかるとふみ、それなら自分がつけ込む隙は十分にあると考えたのだ。これこそまさに、かつて秀吉が恐れた男の面目躍如といえる。

しかし、黒田家の兵は既に家督を譲ってある息子の長政が連れて行ってしまったため、官兵衛に動かせる軍勢はない。
そこで彼は広く兵を募集する。集まってきた者たちは食い詰めた浪人や百姓、町人などで、まさに寄せ集めを絵に描いた状態だったようだ。

そこで彼は集まった者たちに気前よく金銀を分配してやり、またひとりひとりの前に歩み寄って誠心誠意激励したので、兵たちの意気はいやがおうにも上がってゆく。中には小ずるいものがいて分配金を二重三重に取ったものもいたが、官兵衛はこれを知っても笑って咎めることがなかった。

こうして挙兵した官兵衛は瞬く間に周辺の領主たちを吸収し、その兵力を拡大させていく。しかし、実はこの時、彼と同じように野心を持って挙兵していた武将がもうひとりいた。それが大友宗麟(よしむね)の子、義統だった。

すでに述べたように大友家は古くから九州に大きな勢力を持っていた有力大名で、戦国時代には九州三強のひとつにも数えられていた。しかし宗麟の時代に一時拡大するも没落し、秀吉に従うことになった。
しかもその後の朝鮮出兵の際に、義統が味方を救わずに逃げてしまったせいで秀吉の怒りに触れ、ついに取りつぶしの憂き目にあう。以来、彼は毛利輝元の元に預けられていたのだが、「関ヶ原の戦い」にあたっては西軍に参加して毛利の兵を借り、かつての領地を取り戻そうと兵を挙げたのだ。

この義統の軍が東軍側の杵築城を攻めたために官兵衛はその城を救援に向かい、途中の石垣原という溶岩がゴロゴロと転がっていたところで決戦となる。
兵力では官兵衛側が勝ったものの、義統の元には大友の旧臣たちが集結して奮戦し、かなり手こずらせたようだ。しかし、結局は官兵衛が圧倒的な勝利を飾り、義統は降伏する。これが奇しくも9月15日、関ヶ原で決戦が行われた日のことだった。

その後、官兵衛は西軍側の城を攻撃していくが、安岐城を落として富来城を攻めていた時に、彼の元に報告が入る。9月15日、東軍勝利。
当初見立てていた1月どころか、たった1日の決戦で天下は家康のものになってしまった。こうして稀代の軍師の最後の賭けは終焉を迎えたのである。

この挙兵の後日談的なエピソードが幾つか伝わっている。すでに述べたとおり、「関ヶ原の戦い」において官兵衛の息子・長政は謀略で活躍し、また戦場の働きでも功績を上げた。
ところが、このことを家康に褒められて得意満面で父の元に報告に来た息子を、官兵衛は一喝してなじった。息子の活躍に足を引っ張られて自分の野心をあきらめざるをえなかったのだから無理もない。

実際、長政が家康の指示のもとに行った謀略の数々がなければ、関ヶ原の結末はどこに転がっていたかわからない。
そして、そうなっていれば官兵衛の賭けもまた違った結果に辿り着いていたかもしれない。父の野望が息子の働きによって頓挫した、というのはなんとも皮肉なことではないか。

このことは官兵衛にとっても大変に痛恨な出来事であったようで、臨終の際にも長政に「あの時三成がもう少し長く戦っていれば……」と悔やんだという。官兵衛の無念はいかばかりだっただろうか。

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