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【戦国軍師入門】太原雪斎――家康にも影響を与えた、今川家の軍師僧

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榎本秋の戦国軍師入門

今川義元といえば「桶狭間の戦い」で信長の奇襲に敗れた人、というイメージしかないかもしれない。
だがこの今川義元、実は絶頂期には駿河・遠江・三河から尾張の一部(現在の静岡県、愛知県東部及び愛知県西部の一部)を支配した、当時有数の勢力を持つ戦国大名だった。武田信玄が激しく警戒し、家康の前に「海道一の弓取り(東海道で一番の武将の意味)」と呼ばれ、「天下に最も近い男」とも呼ばれていた男、と言えば彼がどれほどの人物であったのかが伝わるだろうか。
その今川義元の師であり、軍師でもあったのが太原雪斎(たいげん せっさい、崇孚(そうふ))だ。

義元は駿河の名門今川家の当主・今川氏親(いまがわ うじちか)の五男で、本来は家督を継ぐべき人物ではなかった。そのため出家させられた彼には、同時に教育係がつけられた。それが雪斎だった。
彼は今川家の重臣の息子で、最初は駿河の、次は京都の寺で修行をしていた。この頃の名を九英承菊(きゅうえいしょうぎく)という。
しかし氏親によって駿河に呼び戻され、義元(幼名は芳菊丸(ほうぎくまる))と共に寺で過ごす。この生活の中で、雪斎は義元に様々な教育を施している。

当時の僧侶は漢文を読めたことから軍学書などにも詳しく、また彼は京での生活も長かったので京文化にも詳しかったことだろう。のちの名将としての義元や、駿府に公家風の文化を花開かせた義元の背景に、この時期の教育があったのは間違いない。

義元と雪斎を取り巻く状況が変わったのは父が死に、1536年(天文5年)、その跡を継いだ兄の氏輝(うじてる)も死んだ時のことだった。
ここで勃発したのが「花倉の乱(はなくらのらん)」という今川家の内乱だ。寺から呼び戻された義元は異母兄で同じく出家していた玄広恵探(げんこうえたん)と家督争いをすることになる。

とはいっても、実質的に争っていたのは両名の母(義元の母は氏輝の母でもあり、実質的な当主として今川家を仕切った寿桂尼(じゅけいに)だった。一方、玄広恵探の母は有力家臣の福島左衛門の娘だったが、この時に雪斎は義元を当主にするべく重臣たちの説得工作を行っている。その活躍もあって今川家中も義元支持で固まり、玄広恵探は自刃して果てた。

こうして義元が還俗(一度出家した人間が俗世に戻ること)して今川家の当主となると、雪斎は彼の軍師として様々に活躍するようになる。まず外交面では周辺国との折衝に努め、武田・北条・今川の三国同盟の締結に重大な役割を果たした。

まず氏輝の時代まで対立していた甲斐(現在の山梨県)の武田氏との融和に努め、同盟を結ぶことに成功する。
さらに、義元はしばしば相模(現在の神奈川県のほぼ全域)を中心に関東を支配する北条氏康と戦っていたのだが、雪斎は早くからこの対立は得策ではないと言い続けていた。
そしてついに今川義元・武田信玄・北条氏康の三者に手を結ばせることに成功するのだ。

こうした三国同盟というのは当時では大変珍しいことだった。彼がこれだけ活躍できた理由としては、僧侶という階級は軍学を始めとする学問に詳しく、また各地を自由に歩き回れたことから外交的にも便利だったことがある。

また、軍事面でも彼の活躍はめざましいものがあった。義元のために様々な献策をする軍師としてはもちろん、既に述べた「小豆坂の合戦」において、彼は墨染めの衣を纏って馬を駆り、総指揮官として堂々と戦ってみせている。
さらに内政面でも彼には大きな功績がある。東国では最古の分国法(戦国大名が自分の領地を治めるために作った法律のこと)である「今川仮名目録(いまがわかなもくろく)」33条にさらに21条を付けたし、寺社・仏教の統制や商業政策での在来商人の保護など、今川家の繁栄に大きな役割を果たした。

このように雪斎が今川家の中で果たした役割は非常に大きく、そのために「今川家は坊主がいなければ国を保つことができないらしい」などと椰楡されることもあった。
実際、彼が1555年(弘治元年)に没すると5年後には義元が桶狭間で奇襲に倒れ、そのあとを継いだ氏真は家を守ることができず、今川家は滅亡してしまう。まさに雪斎こそが今川家の命運を握っていたのかもしれない。

また、彼が果たした歴史的役割として、もうひとつ、重大なものがある。それは松平元康、のちの徳川家康に影響を与えた、という点だ。
先にも触れた安祥城攻めの際に改めて今川家の人質となった彼の後見役を務めたのが雪斎だった。今川家を支えた当時有数の軍師から教育を受けたことが、のちに長い忍耐の末に天下を掴んだ家康の戦略に、大きな影響を与えたことは間違いない。

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