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名古屋城で開催中の企画展「初公開 門外不出 巨大杉戸絵」取材レポート

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名古屋城の西の丸御蔵城宝館で開催中の企画展「初公開 門外不出 巨大杉戸絵」を取材してきました。
(会期:2022年9月17日(土)~11月6日(日)、前期後期で展示物の入れ替えあり)

担当学芸員の朝日さんから直接ご説明いただけるということで、狩野派と御殿建築が大好物なぼくとしてはかなり役得な取材となりましたが、その内容をみなさんにもおすそ分けできればと思って動画でも撮ってきました。
杉戸絵のスケール感を実感できるだけでなく、杉戸を留めるためのカギ(=打掛金物)など非常に珍しい展示物もありますので、ぜひ名古屋城まで足を運んでいただくことをオススメしますが、その予習として動画を見ていただければうれしいです。
すでに見学された方も動画で復習をして、10月5日(水)からはじまる後期展示へ行きましょう!


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企画展の内容

ご存知の方も多いと思いますが、名古屋城は天守も本丸御殿も戦争の空襲で焼失しています。
ただし当時の名古屋市職員の方々が襖や天井板絵のほか、今回展示される杉戸絵も含め、多くの障壁画を取り外して避難させていたため、焼失を免れることができました。

現在の本丸御殿は2018年(平成30年)に復元されたもので、そこに飾られている絢爛豪華な障壁画も複製ですが、昨年西の丸御蔵城宝館がオープンしたことにより、障壁画の原本がこうして順次公開されています。
とくに今回の杉戸絵はサイズが巨大すぎるため過去に天守内での展示も叶わず、また輸送の振動で絵の具が剥落する危険があることからよそへの貸出展示もおこなってきていないそうなので、まさに企画展のタイトル通り「門外不出」の初公開となります。

杉戸絵とは

杉戸絵とは杉戸に描かれた絵のことで、杉戸とは主に建物と建物の間の間仕切りとして使われる板戸です。
二条城でも「蘇鉄の間」のところにはめられていた杉戸が立てかけられていますし、ほかにも何箇所かガラスケースに入った杉戸絵が見学できますが、あれです。
廊下の幅が必要になるため、必然的に杉戸は巨大なものになり、今回展示されたものも約2mの非常に大きな杉戸でした。またいわゆる金碧障壁画のように金箔が貼られているわけではなく、直接板に絵の具で描くため襖絵とは少しちがった印象を持たれると思います。

杉戸が建物間の仕切りに使われたと説明しましたが、今回展示された杉戸絵は、

  • 竹虎図杉戸絵(重要文化財)=大廊下と表書院の間 ※上の写真
  • 松山鳥図杉戸絵(重要文化財)=表書院と対面所の間
  • 雪中柴垣図杉戸絵(重要文化財)=鷺之廊下と上洛殿の間
  • 花車図杉戸絵(重要文化財)=上洛殿の廊下の途中

の仕切りとして使われました(これは前期のもので、後期は入れ替えです)。
具体的にはここです。

たとえば最後の杉戸は建物間ではなく廊下の途中という珍しいケースですが、上洛殿の廊下にあるあの見事な欄間彫刻の下にはめられてました。

つまり単に建物間のドアや仕切りとしての意味合いだけでなく、杉戸の両側が別空間であること、杉戸そのものが視覚的に境界(その向こうがより格式の高いエリアであること)を示していたのではないかというお話でした。

神は細部に宿る

襖絵同様、経年劣化で痛みは生じるのですが、大事に保管されていたこともあり、まだ絵の具の彩色もきれいでしたし、框(かまち)と呼ばれる杉戸の四辺を囲う額縁に施された漆や金箔もしっかり確認することができました。
この框は復元されたものが展示されているので(中にはめる杉戸自体も復元中)、その構造がよくわかるようになっています。

なお框はヒノキで作られていますが、左右に動かすためのキャスター=戸車(とぐるま)は重い杉戸を支えるために硬い木材を使っているとか。
「(御殿)建築は総合芸術」と二条城のセミナーでもよく聞くのですが、まさにその総合芸術っぷりを堪能できる企画展となっています。

さらにぼくが感動したのはただきれいな杉戸絵を並べただけではなくて

  • 室内の襖絵と杉戸絵は同じ人物が描いた可能性
  • 框の装飾が表と裏で異なる(装飾の差で格式のちがいを示す)
  • 板にも表と裏があって表(皮に近いので白くて明るい)を格の高い側に使っている

など各展示に込められたメッセージや企画意図がめちゃくちゃおもしろかったです。
御殿建築では天井(格天井や折上格天井など)や釘隠しをはじめ、建物内の装飾で部屋の格式の高さを示すことは知っていましたが、板の表面にまで気を配っていたのは驚きました。

遺物や資料が語る名古屋城の歴史

そのほか戦災で本丸御殿が焼失した際に奇跡的に残った杉戸の金具や、戦前に書き残された実測図やガラス乾板写真、さらにはその写真を撮影する交渉でやり取りされた手紙など、さまざまな資料が展示されていました。
こうした資料を大事に保管してきてくださったからこそ、あの見事な復元本丸御殿が完成したわけで、現在の職員のみなさんはもちろん、過去すべての関係者のみなさんに感謝しなければと思いました。

なお昭和実測図は名古屋城のサイトに公開されているので、誰でも見ることが可能です。
(クリエイティブ・コモンズ・ライセンスで二次使用もOKなのがすごい)

www.nagoyajo.city.nagoya.jp

そして最後のコーナーには名古屋離宮時代の杉戸も展示されています。
この杉戸には絵が描かれていないのですが、取手の部分(=引手金具)には菊の御紋が入っています。

葵から菊へという、ここにも二条城との共通点が見いだせるわけですが、いずれも狩野派が障壁画を手掛けたこともあるので、二条城と名古屋城の両方の御殿をまとめて見学するツアーとかやりたいですね。

まだまだ書きたいことはあるのですが、今回の企画展はパネルの解説も充実しているのでこのへんで。
ただ絵として見るだけでもとてもきれいですし(江戸時代トップの絵師集団が描いてるので当然ですが)、絵のモチーフの意味とか、装飾の差とか、プラスアルファの知識も得られる眼福な企画展となっています。すべて撮影オッケーなのもありがたいですね。
まずは動画を見て、さらに名古屋城を訪問してご自身の目で見て楽しんでください!

最後になりますが、今回の取材でご対応くださった名古屋城調査研究センターの朝日さん、今和泉さん、どうもありがとうございました。

おまけ

取材終了後に無人の企画展示室内を360度撮影させていただきました。
スマホならスワイプで、PCブラウザならマウス操作で上下左右自由に視点を変更できるので楽しんでください。


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本丸御殿の360度動画もアップしたので、杉戸絵の場所を確認してみてください。


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また西の丸御蔵城宝館に入ってすぐのところ、歴史情報ルームに発掘調査成果速報コーナーができました。
出土品が展示されていますので、こちらもお見逃しなく。

さらにミュージアムショップに寄ったら「名古屋城本丸御殿障壁画集」というすごい本がありました。お値段、なんと9800円!

さすがに躊躇したのですが、襖絵だけじゃなく杉戸絵も掲載されていますし、天井画まで写真に撮って掲載されていたので(持って帰るのは重くて大変でしたが)購入しました。
攻城団のライブラリに入れておくので、スタジオに遊びに来られた際に閲覧していただけます。

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