ここまでは城の歴史などについて紹介してきたわけだが、やはり城の目的の第一義は「戦うための舞台であり大道具」だ。
そこで、ここからは城をめぐる戦いについて、主に籠城側の視点で見ていくことにしたい。
――戦う、といっても、合戦は両軍が向き合った状態から始まるわけではない。その前、準備の段階から合戦はすでに始まっているもの。
そこで、江戸時代の兵学者で北条流兵法の祖である北条氏長(ほうじょう うじなが)が著した『兵法雌鑑(へいほうゆうかん)』の中から、籠城側の前準備に関する項目を抜き出してみよう。
- 食糧や燃料(米や大豆、味噌や塩、薪など)、飲用水、矢・石・火薬、竹や木といった建築資材などをきちんと不足ないように準備すること。特に炭や薪は普段から土に埋めておくこと。
- 敵がやってくる前に周辺の竹や木を切っておき、家を焼き(敵が隠れる場所になってしまう)、水を汚し、使えそうな各種の資材は取り込んでおくこと。
- 門をはじめ、火をかけられそうな場所には泥を塗っておいて、防火をすること。
- 合言葉の類を用意し、スパイが入り込まないようにすること。
- 城内に、食用や薬用として利用できる樹木を植えておくこと。
もちろんこれに加えて、城の防御施設の手入れをして破損箇所を修復したり(堀の底が土や葉っぱで埋まっていたらさらわないと!)、武器や兵器の類を備蓄したり、有事とあればすばやく兵を集め、援軍を求められるように準備を整えておく必要があったろう。
また、もし予定よりも少ない兵しか集められなかったら、防衛のプランも考え直さなければいけない。
城はたいてい「何人が立て籠もる」ということを前提に作ってあるから、予定以下の人数しか籠もっていない場合、どこかの守りが薄くなる可能性があるからだ。そこで、「どこそこの曲輪は最初から放棄しよう」などと防衛線を縮小し、実質的な防御力を上げる必要がある。
兵の配置を考えるに際しては、彼らの持っている武器のことも考えなければいけない。
弓矢や鉄砲といった遠くから攻撃できる飛び道具は籠城側にとっても攻城側にとっても非常に有用だが、数がなかなかそろわない。そこで、何ヶ所かに集中的に弓矢や鉄砲を持った兵士を配置し、有効活用する必要がある。
これに加えて、馬鹿にできない飛び道具が「石」だ。特別な訓練を受けていなくても使える投石は非常に有用であり、実際に合戦では多くの兵士が石を受けて死んだのだ。